委員長 小泉 修一

伝統の継承と、持続的な発展。

山梨大学 医学部 薬理学講座
小泉 修一

この度、岡野栄之先生の後任として伝統ある日本神経化学会の理事長を拝命いたしました山梨大学医学部薬理学講座の小泉修一でございます。岡野先生が盛り上げてくださった本会の勢いを、さらに発展させるように最大限の努力をいたす所存であります。日本神経化学会は、1957年に設立された「神経化学」を標榜する世界で最も古い学会として、発足当初から今日まで、世界の神経化学をリードしてきました。また基本理念として「化学物質・分子により脳の仕組み及び疾患のメカニズムを解き明かす」を掲げ、これもぶれることなく続いております。さらにこの理念実現のために、徹底した「深い議論」及び「若手育成」をポリシーとして活動を行って参りました。これらの素晴らしい理念は、これまでの会員の皆様、理事長、理事の先生方、委員長、委員を務められた先生方のおかげで、強く、長く引き継がれ、今日、日本神経化学会は脳の研究領域のなかに一つの大きな流れを作ってきたと思います。私は、本学会の基本理念に強く賛同しておりますので、これまでの大きな流れは今後も変えません。しかし、さらなる高みを目指し、変えるべき点は勇気をもって改革していこうと考えております。

今回は2度目の理事長登板となります。前回は2019年からの2年間で、ちょうど平成が令和に、世の中が新型コロナによってニューノーマルの時代に入ったころでした。令和の日本神経化学会をつくる、と意気込んだのですが、新型コロナでその思いは大きく挫かれたような形になってしまいました。「恋も二度目なら少しは上手に〜」という大ヒット曲がございましたが(古くてすみません)、理事長も二度目なら少しは上手に、日本神経化学会の舵取りを行いたいと思います。前回の旗印は「伝統の継承と改革」でした。今回は「伝統の継承と持続的な発展」にしたいと思います。

先ず伝統の継承です。先述しましたように、本学会には素晴らしい伝統が脈々と息づいております。その伝統を継承するために、これまでの歴史をきちんと見える化する必要があると感じています。国際神経化学会(日本神経化学会のほうが歴史が長い)には、Historianというポジションがあって、その歴史をきちんと記録し、うまく活用しています。ノスタルジーにどっぷり浸かるという訳ではありません。歴史から学ぶことは非常に大きいと感じているからです。今回のCOVID-19への対応においても、新しいRNAワクチン等の最新のサイエンスが果たした役割とともに、過去のパンデミックから学んだ事が重要な役割を果たしました。日本神経化学会が来た道をきちんと記録し、そこから学ぶことで新たな発展が、また持続的な発展があると考えています。その仕組みを作りたいと思います。

発展に関しましては、今は日本神経化学会が正に大きな役割を果たせる時代がやってきたと言えます。分子を化学することによって疾患を治療する、という本学会が発足当初よりもつ基本ポリシーを実現できる科学、技術、環境が整ってきています。これを本学会が主体性をもって体現するための道筋を付けたいと思います。またビッグデータ解析技術やAIなど、これまでのサイエンスを大きく変える可能性を秘めた新しい技術が幾つも生まれており、これからもさらに新しいものが出てくることが予想されます。このような新しい技術や戦略との向き合い方も、今後の本学会にとって大きな問題であると考えています。そのための対策も講じたいと考えています。私は、これら新しい技術の進化によっても、回り道が少なくなるだけで最終的には「分子で疾患を治療する」に結びつくのだと考えます。しかし、そんなに単純ではないかもしれません。本学会のポリシーの一つでもある「議論を尽くす」ことにより、上記も含めた持続的な発展の道筋を付けたいと考えています。

現在日本が抱えるいくつかの問題、人口減、経済活動減、それに伴う研究費減による科学及び技術の低迷等は、そのまま本学会にも大きな影響を与えています。本学会は、会員数は決して多い学会ではありませんが、尖った、先進性の高いアイデアに満ちた会員が集っております。人がすべてと思っております。人を育てるという本学会のポリシーを十二分に活かし、素晴らしい会員の皆様と共に、力を合わせることで、本学会はもちろん脳、神経研究・医学を牽引していく覚悟であります。皆様、どうぞご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申しあげます。

2023年4月3日

理事長だより