書評『発達障がい – 病態から支援まで』
大阪大学大学院連合小児発達学研究科 [監修]
168ページの手に取りやすいボリュームの中に、発達障がいの臨床から研究、さらには社会的支援に至るまでの幅広い話題が、それぞれの専門家によって解説されている。
評者は、神経疾患や精神疾患に興味をもつ神経化学の研究者である。医学部を卒業し、脳神経内科医としての臨床経験はもつが、精神科は門外漢である。研究を通じて精神疾患についても勉強し、何となく(病気の本態がよく判っていないということが)わかったような気でいた。その知識を総ざらえする積もりで本書を手に取ってみて、本当によくわかっていなかったことが判った。自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などを含む発達障がいの歴史から診断、治療に至るまで、現時点での知見が網羅されている良書である。精神疾患の研究を志す、特に若手の研究者にお勧めである...と、ここまで書いて、評者のように素人ではなく本職の精神科医はどのように評価するのか気になった。
精神科医に聞いてみた。発達障がいは元々は小児精神科の領域ではあるが、最近は社会にうまく適合できない大人の中にも発達障がいと診断されるべき人が多く含まれ、大きな問題になっているそうである。大人の発達障がいやその支援のような最新のトピックスも記載されている点が良いという意見で、一安心した...と、ここまで書いて、支援を言うならやはり子供、特に学童期の発達障がいの支援についての記載がどうなのか気になった。
スクールカウンセラーに聞いてみた。従来は、発達障がいの子供のケアという視点で語られることが多かったが、それだけでは充分ではないという認識が広まりつつある。発達障がいの子供本人のみならず、家族の支援や幼保小連携などにも紙幅が割かれている点が良い、という評価であった。
ということで、評者は安心して本書をお勧めできるわけだが、惜しむらくは、若手研究者にとって最も身近な部分、例えば多数の報告があるASDなどの疾患モデルをもう少し掘り下げて、最近長足の進歩を遂げている霊長類を用いた研究も取り上げていただけるとより良かったと思う。発展著しい分野であるだけに、ややないものねだりの厳しめの意見を付けさせていただいた。
滋賀医科大学生理学講座
等 誠司
国立国会図書館サーチ
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I032369051-00