45. リソソーム膜破綻とリソファジー機能低下が異常α-シヌクレインの伝播を引き起こす

著者
角田渓太、池中建介
大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学教室
DOI
10.11481/topics207
投稿日
2024/04/08

はじめに

パーキンソン病(PD)は国内でおよそ15-20万人が罹患するアルツハイマー病についで多い神経難病です。根本的な原因は不明ですが、1997年にPDの病理学的特徴であるレビー小体の主要構成成分がα-シヌクレイン(αSyn)であること、またαSynをコードするSNCA遺伝子が家族性PD(PARK1)の原因遺伝子であることが発見されて以来、多くの研究がなされてきました1。病理学的にはPDの重症度に併せて脳内のαSyn蓄積が見られる範囲が進展すること(Braak仮説)、生化学的には異常αSyn凝集体は正常αSynを異常構造に変換しさらなる凝集体をつくること(プリオン仮説)が分かり、脳内で異常αSyn凝集体が神経細胞間を伝わりαSynの異常が伝播することがPDの原因として有力視されてきました。しかしながらαSynが神経細胞間を伝わる仕組みについてはまだ不明な点が多く残されています。細胞外のαSyn凝集体はいくつかの受容体を介して神経細胞に取り込まれることが分かっていますが、エンドサイトーシスされたαSyn凝集体はリソソームに至り、細胞質に発現する正常αSynからはリソソーム膜で隔てられています。どのようにして取り込まれた凝集体がリソソーム内から細胞質のαSynへ凝集伝播するかは不明でした。(図1)

これまでにαSynをはじめとする神経難病の原因となる蛋白凝集体はエンドソーム膜やリソソーム膜を破る性質があることが報告されていました2。一方で共同研究者である大阪大学吉森保教授らは破裂したリソソームは選択的オートファジーにより隔離され除去されること(リソファジー)を報告していました3。今回我々はリソソームの破裂がαSyn凝集の伝播経路であること、リソファジーがそれに防御的に働くことを仮説とし細胞モデルを用いて実証しました4

1.αSyn凝集の伝播はリソソーム破裂を介して伝播する

はじめに、培養細胞に対して人工的に作成したαSyn凝集体(pre-formed fibril:PFF)を投与し、細胞内の正常αSynが異常構造に変換され凝集が始まる様子(凝集の伝播)を可視化しました。

その結果、細胞質の正常なαSynの凝集は人工αSyn凝集体を取り込んだリソソームの近くで始まることが分かりました。さらにLLOMeやシリカなどのリソソームを破綻させる試薬をPFFと併せて投与すると、細胞質のαSyn凝集を示すリン酸化αSyn(p-αSyn)陽性細胞が有意に増加することが確認できました。これらの結果から異常αSyn凝集の伝播は、異常αSynが取り込まれた先のリソソーム膜を破れて、細胞質へ異常αSynが脱出し細胞質のαSynへ影響を及ぼすことで起こることが示されました。(図2)

2.リソファジーは異常αSynの伝播に防御的に働く

これまでに我々は破れたリソソームが選択的オートファジー=リソファジーで細胞質から隔離され除去されることを示しており、これがリソソーム膜の破綻を介した異常αSyn凝集の伝播に防御的に働くと考えて検証を行いました。その結果、PFFを投与した細胞ではリソソーム上に膜の損傷を示すGal3とリソファジーを示すLC3の集積が起こり、電子顕微鏡観察と併せて、異常αSynの取り込みによりリソファジーが誘導されることを確認しました。リソファジーに必須の遺伝子FIP200をノックアウトした細胞(FIP200KO細胞)を用いた実験を行うと、正常細胞よりもFIP200KO細胞の方がαSynの凝集の伝播が起こりやすいことが確認されました。またリソファジーの他にESCRTというタンパク複合体によりリソソームの損傷が修復されることもこれまでに報告されていました5。ESCRTによるリソソーム修復がαSyn凝集の伝播に与える影響についても検証を行い、正常細胞ではsiRNAによるESCRT分子(Alix, TSG101)の発現低下でαSyn凝集の伝播が増悪することを確認しました。一方でFIP200KOでは差が見られず、リソソーム修復もαSyn凝集の伝播に防御的に働くものの、リソファジーの機能がより重要であることが示唆されました。

3.リソソーム膜損傷とリソファジー機能低下は相乗的に異常αSyn伝播を増悪する

これまでの結果から、異常αSyn凝集の伝播はリソソーム膜の破綻により異常αSynが漏れ出すことを起点としており、リソファジーは破れたリソソームを包み込み除去することでそれに防御的に働くことが示されました。(図3) さらにLLOMeによるリソソーム膜の破綻とリソファジーの機能低下(FIP200KO)を同時に行うと、相乗的にαSyn凝集の伝播が促進されることを発見しました。マウス初代神経細胞を用いたαSyn凝集の伝播モデルでも、LLOMe処理とリソファジーを阻害するBafilomycin処理を組み合わせると同様にαSyn凝集の伝播が相乗的に促進されることを確認しました。

おわりに

今回の成果からPDの病態である異常αSynのひろがりには1.リソソーム膜の破綻と、2.リソファジーの機能低下が重要であることが示されました。PDの原因は不明ではありますが、加齢に伴う有害なリソソームへの環境物質の蓄積やリソファジーの機能低下が発症に寄与している可能性が示されました。またリソソームの恒常性を改善するという治療が有効である可能性も示され、今後の研究課題と考えております。


引用

  1. Xu, L. & Pu, J. Alpha-Synuclein in Parkinson ’ s Disease : From Pathogenetic. Parkinsons Dis 2016, 44–53 (2016).
  2. Flavin, W. P. et al. Endocytic vesicle rupture is a conserved mechanism of cellular invasion by amyloid proteins. Acta Neuropathol 134, 629–653 (2017).
  3. Maejima, I. et al. Autophagy sequesters damaged lysosomes to control lysosomal biogenesis and kidney injury. EMBO J 32, 2336–2347 (2013).
  4. Kakuda, K. et al. Lysophagy protects against propagation of α-synuclein aggregation through ruptured lysosomal vesicles. Proc Natl Acad Sci U S A 121, (2024).
  5. Papadopoulos, C., Kravic, B. & Meyer, H. Repair or Lysophagy: Dealing with Damaged Lysosomes. J Mol Biol 432, 231–239 (2020).

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